INTERVIEW
オーナー兼マスター 葛西甲乙インタビュー
コーヒーを始めたきっかけは?
ちょっと前置き長くなりますけど、、
大学を出てから念願の辻堂に越してきて、普通に就職して東京まで通勤してました。仕事はそれなりに情熱を持って真面目にやってました。でも一生この仕事で良いのかな?とかこの会社で骨うずめるのかな?とか色々考えていましたね。
どうせなら辻堂周辺で仕事しながら生活したいってずっと思っていました。恥ずかしながら、当時はコーヒー好きってより喫茶店入ったらチョコレートパフェ食べてたくらい、コーヒーに興味なかったんです。
当時、両親が川崎で小さな町工場をやってたんですけど、時代の流れもあって日本の零細規模の製造業がどんどん駄目になってて、、、
家も例外ではなかったんです。
そんな折、親父から何か商売やってみないかって話があったんです。今ならここを閉めた資金で何とかなるだろうって。ちょうど自分も勤めてる会社に未来を感じなかったですし、自分に投資してくれるなんて親くらいですから。嫁いだ姉にも両親を頼むと言われてましたし…。若さゆえ、もう単なる勢いですよ。それで何やるのって話になって、実家を売買する時の知り合いの不動産屋からたまたま紹介された業種のひとつが自家焙煎コーヒー豆のお店だったんです。よく解らないけど、やってみようってことになったんです。動機が不純ですよね。
でも紹介してもらった所で教わると200万掛かるって言われたんです。実際見に行ったんですけど…絶対払いたくないって思いましてね。
当時は関連する本を読んだり、参考になるお店を見て回る位しかできませんでしたから。1996年に日本に登場した大手シアトル系カフェすら殆ど知りませんでしたから、ほんと笑っちゃいますよね。今思えばそれで良かったかも知れませんね。とにかくコーヒーに対しては客観的に横から見ていた感はありましたね。
自分はどんなタイプだと思いますか?
思うと突き進んじゃうタイプですかね。計算してじっくり石橋を叩く人ではないので、まずはやってみる方なんですが…案外、コツコツ根気よくやっていく感じが好きみたいです。1発勝負やギャンブルする事は苦手です。
まぁ決してビジネスマンって感じではないですね…不器用な性格だし、頭も良い方だとは思いません。親父も自営の職人気質で凝り性ですし、親戚関係はみんな商売やってます。
なのでこの職業は向いてるのかなとある時から認めました。典型的なB型です。スペシャルティコーヒーの大切な部分、OPENマインドな気持ちをいつでも持つようにしています。
この仕事で苦労されていることは?
そうですね、どの仕事もそうかも知れないんですけど、これで食べて行くのは大変と言うことです。今も決して楽ではないですが、お店始めて食べていく事が大変な時期が本当に長かったんです。
今日の売り上げ3,000円、今日は0円…なんて事もありました。なので何だかんだ16年よく続けて来られたなって思います。正直、辞めようって思った事も何度もありましたよ。でも素晴らしいコーヒーとの出会いがきっかけで、この仕事で一生やっていこうって決めた時から周囲に何を言われても自分の譲れないところは守ってきました。それを理解してもらうことが大変でしたね。
今でも理解もされてない部分が多々あると思いますけど、、でも先行投資って必要だと思うんです。二の足踏んでても何も始まらないですしね。どこで勝負を掛けるのか?今の自分は何をすれば良いのか。5年後、10年後は何をするべきなのか、皆さんも一緒だと思います。
今でもいつ何時も崖っぷちな感じです。そんな気持ちを持ちながら仕事してます。安定した仕事にも憧れますけど…自分が選んだ道なのでこれから何があっても後悔はしません。
悩みはありますか?
前問いの続きになっちゃいますけど、スタッフにもコーヒーでご飯が食べれる様にしてあげたいです。海外行くと路地裏の3坪くらいの小さなお店でもしっかり営業できてるんですよ。決してそんなに物珍しい事をやってなくてもです。きちんと需要があって根付いてるんですよね。あとはコーヒー原料調達の難しさですかね。ウチみたいな小さいロースターは本当に大変です。いろんな意味で ハンデが多すぎます。でもそうは言っても、それなりに自由に楽しくやっていると思ってます。本当に良いスタッフとお客さん、仲間、両親にも助けられてるなぁってしみじみ思っています。
40歳過ぎてから考え方が結構変わりましたね。ここ3年くらいが勝負所ですかね。早く同世代の人並みの生活を送りたいです。はっきり言って車も持ってませんから、、全てお店とコーヒーに注ぎ込んでます。
これからの日本のコーヒーシーンはどうなっていくと思いますか?
都心では新しいカフェやロースターのムーブメントが起こって盛り上がってますよね。いやぁーうらやましいです。 今までの大手主導の流れから、よりコーヒーの本質と向き合った方たちがコーヒービジネスを始めていること、若い方が興味を持ってどんどんチャレンジして、とても良いことだと思います。
昔に比べれば学べる環境やチャンスもたくさんありますし、その気になれば誰でもコーヒービジネスを始めるチャンスがあると思います。
ただ前述した通り、日本でコーヒービジネスを本気でしようと思うと資金が結構掛かると思うんです。海外製品や機材も多いですし、地代も高い。個人事業主レベルで商売を始めるにあたっては、スケールの限界があります。あとは始めても定着して根付くまでには時間と体力が必要です。
でも各地で小さな力が集まれば、きっと大きなムーブメントが起きると思うんです。コンビニや自販機、街中にあるチェーンショップのコーヒーではなく、あなたの町のお気に入りのお店でコーヒーをテイクアウトしていこうっていう人が増えていけば良いし、そうなるために今こそ地域のお店が頑張らなければいけないと思います。もっとコーヒーを通して色んなカルチャーが 起きて欲しいと願ってます。
これから起業したいと思っている人へ
まったくコーヒーを知らなかった私が生涯を掛けてやろうと思った仕事です。まだまだ自分も解らないことだらけですが、素晴らしい世界だと思います。今スペシャルティコーヒーの一線で頑張っている方たちも、みんな真面目で情熱ありますしね。是非臆する事なくチャレンジして欲しいですね。あとはコーヒーの本質を理解して取り組む事が必要だと思います。
スペシャルティコーヒーは決して一過性のものではない、本当の品質は嘘を付きませんから。その事をお客様に正しくお伝えできる事が求められると思います。 私が言うのも何なんですけど、スペシャルティコーヒーを理解するには柔軟で素直、そして謙虚な気持ちが大切だと思います。
今後の展開を教えてください
とにかく湘南のコーヒーカルチャーを変えるくらい頑張りたいです。これからは地元の同業者の仲間も増やしつつコーヒーを地域の皆さんに広めて行きたいです。そしてカフェも増えて欲しいです。湘南エリアはレベルの高いカフェがたくさんあるって言われるくらいになったら良いですね。そこに自分は何ができるのか、貢献できるのかを考えて行きたいです。
これからの夢はなんですか?
できれば1年くらい産地に住んで現場をもっと知りたいですね。あと10年早くスペシャルティコーヒーと関われたと思うことも多々あるんですが、今をしっかり頑張ってもっと産地に行ける様になれればと思います。1度スタッフを連れて産地に行きたいですね。あとは山奥でカフェやったりとかしたいですね。一度箱根の奥地でお店をやろうって本気で考えた時期がありました。あとは前述した通り、湘南エリアをカフェの街にしたいですね。海外のように路地裏でもクォリティを持った1杯を出せる地域密着型のカフェが増えて欲しいです。
最後に一言
苦節15年・・・ようやく自分の理想に近い形のお店を作る事ができたと思います。これからも辻堂にしかっり足を付けて頑張っていこうとおもっています。これからもどうか温かく応援して下さい。そしてお店に来ていただいていろんな体験をしてコーヒーの世界を広げて頂きたいと思います。(2012年10月 撮影)